添削を終えて・2
(「添削を終えて」1より・天野泰司)
美しいと感じるものに囲まれて暮らす。
毎日使う器、着物や衣服、文房具、農作業や狩に使う道具…。
そんな「生活の用の美」に光をあて、改めて評価したのが、
柳宗悦らが興した「民芸」という芸術復興の動きでした。
生活の中で感じる喜びは、あまりにも日常的で、
それが芸術であることを忘れがちです。
日々目に入り、手に取るもの。
住んでいる家、食べもの、聞く音、感じる気配…。
そうした身の周りの全てに気を配り、
美的な何かを感じながら暮らす幸福感が想像できるでしょうか。
私は、パソコンはずっとMacです。
禅の庭にも通じるシンプルで洗練された美しいシルエット、
使う人の身になって考えられた人間的な機能と操作性に、
使っていて喜びを感じます。
Appleが手がけてきた、プロダクトデザインという分野は
現代における民芸と呼べるのではと思います。
京都造形芸術大学には、美しい製品を生み出すプロダクトデザイン、
建築や造園の分野をカバーする環境デザインなど、多種多様な学部学科がありますが、
その根幹には、芸術を通じて世の中を変えていこうとする
創立者、徳山詳直さんの強い思いがあります。
「争いや貧困、歯止めのきかない欲望に満ちた世の中を変え、
人間が、平和に、より幸せに生きていくためには、
自然を敬い生命を尊ぶ芸術性こそが真の武器になる」。
本気でこの世界の立て直しに挑む、
その戦いの砦として京都瓜生山に芸術大学を作ったように、私には感じられます。
参考・「京都文芸復興」「藝術立国 ― 平和を希求する大学をめざして ―」
「芸術」が身近になればなるほど、
日々の輝きが増し、幸福に直接結びついていきます。
「身体」の授業は、最も身近な、自分の体に対して、
自然な美しさや、気持ち良さを感じていくレッスンになっています。
ごく自然に息をすることが気持ちいい。
体にそっと触れ、やさしくなでることが心地よい。
ゆっくり首や背骨が動くことが快い。
歩く、立つ、座る、眠る、あくびやのび、
食べる、排泄する、見る、聞く、感じる…。
そうした一挙手一投足が、嬉しさや楽しさ、幸せな感覚に満ちている。
(3につづく)